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不動産売却と相続手続き【相続土地の売却】事例5「隣人と大揉め」

相続した土地を売却しようとしたら、境界が未確定で隣人とトラブルに

土地の写真

東京都在住の藤山優さん(46歳)は、親から土地を相続したものの、自分には管理しきれないと自分の代で売却を決意。

ところが売却するには、「境界確定」が必要なことを知ります。境界確定には隣地所有者の同意が必要ですが、同意にあたり隣人と大揉めに発展してしまいます。

相続時の状況

藤山さんは2人兄弟で、実家も同じく都内にあります。親から相続したのは実家と、父が家庭農園をやっていた畑、預貯金でした。

「実家は賃貸マンションに住んでいた弟夫婦が入居を希望していたため、弟の名義にすることになりました。預貯金は2/3が私、1/3が弟ということで話しがまとまり、畑については長男の私が処分することに決まりました。」

藤山さんが相続した遺産

遺産 評価額
実家 土地 2,475万円、家 160万円
土地(家庭農園をしていた畑) 市街地農地 2,570万円
預貯金 880万円
課税遺産合計額 6,085万円

相続人が2人の場合は基礎控除額が4,200万円あります(※平成27年1月~)。課税遺産合計の6,085万円から、基礎控除額と葬儀代を引いて残ったのは1,680万円。この金額に対して相続税が課税されます。

自分の場合は相続税、かかる?かからない?
【不動産を相続した場合の税金】相続税の計算方法と対策

相続税の計算をすると、税額合計は168万円となりました。実際に相続した割合に応じて支払うので、支払い額は藤山さんが871,920円、弟が808,080円ということになります。

相続税額の計算方法

1.ひとまず法定相続分どおりに分ける

1,680万円を1/2ずつ分ける 840万円/840万円になる ※兄弟2人なので法定相続分は1/2ずつ

2.税率をかけて税額を算出→合計額を出す

それぞれ課税遺産額に税率を掛け、合計した図表
相続税率はこちら

3.実際に相続した割合を計算

実際に相続した割合の計算方法図表

4.2で算出した税額合計に、実際相続した割合を掛ける

168万円×51.9%=871,920円、168万円×48.1%=808,080円

相続税の支払いは藤山さん、弟、共に相続した預貯金で賄うことが出来ました。これが預貯金が無く支払いが困難な場合は、売却や延納、物納などを検討しなくてはなりませんので、兄弟でホッとしたといいます。
(参考記事:相続税が払えないとき~不動産売却で納税する

そんな時間もつかの間、藤山さんの相続した土地にとある問題が発生しました。

土地の境界が確定されていない

畑を売却のため実測しようとしたら、境界標がない

藤山さんが相続した土地は、父が野菜などを育てる畑として使っていた、実家そばの60坪弱の土地。

「地目は農地でしたが、市街地農地だったため宅地に地目変更もすぐにできるはず、と売却の方向で決めていました。」
(農地から宅地への地目変更についてはこちら→【農地の売却】相場はいくら?手続きと税金控除

いくつかの不動産屋へ足を運び、土地の売却へ向けて話を進めた藤山さん。しかし、売却の為に土地の実測をしようとしたところ、隣地との境界杭が見当たらなかったのです。

境界杭(境界標)とは、土地と土地の境界を示すもので、これがないと実測ができません。実測出来ないという事は、売却も進めることができません。
(関連記事:【土地売却】測量費用と境界確認・確定

境界が確定しないと、土地は売却できない!

境界確定のためには、隣地の所有者との合意が必要不可欠

「地価が高ければ境界で揉めるのも分かりますが、この土地は都内とはいえ、多摩地域の坪15万円ほど。隣人とも親しくしていたようだったので、まさかトラブルになんてならないだろう、と思っていました。」

その土地と隣接していたのは、両隣と後ろの計3つの土地。それぞれの所有者3人の同意を得なければなりませんでした。

土地近隣の状況・地図

境界は、関係者全てが立ち合い境界を確認後、「筆界確認書」または「立会い証明書」に署名捺印することにより確定します。

関係者の中で書類に署名してくれない人が一人でもいれば、境界は確定できません。

「隣地所有者3人それぞれ一人ずつ話しを付けていたら、絶対にいつまでも話がまとまらない」と不動産屋からアドバイスを受け、境界確認の立会日を決めたい旨をそれぞれ3人に伝えることになりました。

立会日を決めるだけで既に2カ月が経過

ここからが大変でした。隣地の所有者3人は、売却することには何も文句はないようでしたが、境界が確定されていないことを知ると急に態度は一変。それぞれ都合もあり、立会日は最初に話をした日から2か月後にやっと調整がつきました。

意見が全く一致しない

境界は、地図や公図、登記簿の面積や古文書などを元にして確定をしていきます。土地家屋調査士や不動産仲介業者、各土地所有者4名で立会が行われましたが、所有者皆がそれぞれ自分に都合の良い資料を持ち寄り話すため、一向に境界が確定できません。

所有者の1人は「ここの部分は、君のお父さんが野菜を作っていたけど私の土地部分を貸していただけ」と主張しだすと「そういえばうちも」とまさに死人に口無し。本当の事が何なのかも分からないまま時間だけが過ぎます。

「登記簿上の面積が198㎡となっていたのでその範囲は確実に私の父のものだったのですが、その部分を右にずらすか左にずらすか、それとも後ろにずらすのかで大変揉めました。平米あたり15万円の土地ですらこうなるのですから、地価の高い都心の土地ではもっと酷いでしょうね」

所有者全員が納得しなければ境界は確定できない

結局初回立会日だけでは話はまとまりませんでした。2度目の話し合い日を決めるのにもまた数か月がかかり、特に両隣の所有者の良い争いは酷いものだったと言います。境界確定がまとまらない場合は、民事調停を申し立てたり弁護士に仲裁を頼んだりするのですが、まさにその一歩手前まで行ったそうです。

藤山さんは、父の土地を売ってひと儲けしようなどとは思っていませんでした。元々父の土地だったので近隣住民ほど執着もありません。結果として、藤山さんが大半の要求を呑む形で境界確認の書面は作成されました。

境界が確定したのは、およそ1年後

ようやく書類が揃い境界が確定しましたが、既に売却しようと思い立った日から1年以上が経過していました。境界確定には平均3~4か月かかると言われていますが、1年以上たってもまだ確定できないケースも多いのです。

予備知識

上記にも書きましたが、境界が確定しないと売却はできません。藤山さんの場合は、相続税支払いのために売却するのではなかったためまだ良かったのですが、これが売却したお金で相続税を支払う場合は大変です。基本的に相続税は、相続の発生した日(被相続人の死去した日)から10ヶ月以内に申告をし、納税しなくてはいけません。境界確定に1年かかっていては売却できず、支払いに間に合わなくなります。
相続税が払えないとき~不動産売却で納税する

売却までの過程

不動産仲介業者と契約

藤山さんが契約したのは大手不動産業者。先に書いた境界確定の立ち合いについても、この不動産屋の担当者が全て指示をしてくれました。

「この土地のそばに、父が昔からお世話になっていたという不動産屋があったので、一度はそちらへとも考えました。ただ境界確定へ向けての話し合いをできるだけスムーズに行いたかったので、あえて地元とはあまり繋がりのない大手不動産屋を仲介に入れることにしました。」

地元の不動産屋は、もしかしたら隣地所有者3人のうち誰かと親しいかもしれない。その場合他の所有者に先入観を与えることになり、益々話が揉めてしまう可能性がある、と判断したのです。

境界確定に入ってもらったので、売却も必然的にこの大手不動産業者に頼むことになりました。ただ、藤山さんはできたら一括査定を頼んでみたかった、と後から感じたと言います。

「やはりひとつの不動産屋の査定だけでは信用できない。今となっては、もう少し高く売り出しても、土地の買い手はいたのではないかと思っています。」

不動産屋の賢い選び方とは?
高値売却できる、不動産屋の選び方

土地売却でかかった税金

売却価格 2,680万円
取得費 土地購入代金※書類がないため売却価格の5%で計算 ▲134万円
諸費用(仲介手数料・登記等) ▲105万円
相続税の取得費加算 ▲71万円
譲渡所得 2,370万円 ←この金額を基に税額を計算します
税金額 所得税(15%):3,555,000円
住民税(5%):1,185,000円
合計 474万円

【補足】相続税の取得費加算の計算

相続した土地を売却した場合は、支払った相続税までの金額を取得費に加算できることになっています。藤山さんは相続税を871,920円支払っているため、本来は取得費に871,920円を加算することができます。

ところが、平成27年1月1日~改正により、「売却した不動産部分についての相続税分」しか取得費に加算できなくなりました。

・藤山さんの場合
・相続財産合計 6,085万円
・相続税額 168万円
・売却した土地の評価額 2,570万円土地を2,680万円で売却したとき、取得費に加算できる相続税の金額は
168万円×(2,570万円/6,085万円)=約71万円
売却した土地にかかった相続税分しか加算することができません。

藤山さんは、相続税と売却時の譲渡所得税・住民税合わせると561万円もの金額を納税したことになります。

※これは、平成27年の相続税改正前であれば、基礎控除額が相続人2人では7,000万円あったため相続税は0円でした(7,000万円までは非課税だった)。

まとめ

境界確定はできれば生前に終わらせておく

藤山さんの事例から学べることは、なにより「境界はできることなら親が生きているうちに確定を済ませておくべきだ」ということです。藤山さんのように地価が低い土地でも揉めることが多く、そうなると土地を売却することもできません。

境界は、土地と土地の間に境界杭(境界標)があるかどうかですぐに確認できます。不動産を相続する予定がある方は、必ず親に確認するのと同時に、ご自分でも土地の境界杭を確認されることをおすすめします。

取得費が分かる書類を探しておくこと

譲渡税が多くなった原因→土地の取得費が不明だった

今回藤山さんが、土地を売却した際に税額が474万円もかかったのは「土地を購入したときの値段が分かる書類が無かったこと」が原因です。

土地を購入した際の書類が見つからなければ、売却価格の5%が取得費となってしまいます。そうなると利益が大きくなり、支払う税金も高くなってしまうのです。

これがもし、藤山さんの父が1,000万円で購入していたことが分かる書類があったとしたら?税額は300万円まで下がり、174万円も税金が違ってきました。

不動産を相続する予定がある方は、親が生きているうちに取得費はいくらだったかきちんと証明できる書類の場所を確認しておきましょう。

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